人魚姫の涙
一瞬驚いたように目を見開いた紗羅だったけど、じっと俺を見つめたまま言葉を落とす事は無かった。

その沈黙が居たたまれなくて、慌てて声を上げる。

「さ...」

「成也」


俺が声を上げた瞬間、遮る様に話し出した紗羅に口を噤む。

すると、紗羅はゆっくりと頬を上げて、子供の頃と変わらない眩しい笑顔で微笑んだ。


「おかえりなさい」


優しい、まるで天使のささやきの様な声。

微笑むその顔が真っ直ぐに俺だけに向けられて、息が詰まる。


「――っ」


そして気が付いたら、俺は紗羅を抱きしめていた。
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