人魚姫の涙

「どうしたの?  成也」


耳元で聞こえた紗羅の声で我に返った。

ゆっくり抱きしめていた腕を緩めると、不思議そうに俺を見上げる紗羅と目が合う。

きっと海外生活が長い紗羅からすると、こんな事挨拶の延長にすぎないのだろう。

ケラケラといつものように笑って、不思議そうに俺を見つめている。


「走ってきたの? いっぱい汗かいてるよ」


そう言って、俺の額にかかる髪を笑いながら横に流す紗羅の細い指。

夕日に照らされた紗羅は、まるで天使の様に綺麗で、その瞳に映っている自分が奇跡の様な気がした。


向けられるその笑顔に、ビリビリと体に電気が走る。

触れられた額が熱を持ったように熱い。

目に映る全てが愛おしくて、この胸に抱いて誰にも渡したくないと思った。


こんな感情、初めてだった。

突然現れた感情に、驚きが増す。


俺の名前を口づさむ、その唇が愛しくて。

俺は恋に落ちたんだと。

そう思った。
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