人魚姫の涙





ガヤガヤと騒がしい講義室。

いつもの顔ぶれの中に足を進める。


「お~成也おはよ~」

「おはよ~眠ぃ~」


同じゼミで高校からの友達の和志の姿を見つけて歩み寄る。

ストンとそいつの横に座って、机に突っ伏した。

どうも朝は苦手だ。

既にウトウトと目の前が暗くなった時、騒がしい足音が真っ直ぐこちらに向かってきた。


「ちょっと! 大ニュース! 大ニュース!!」


騒がしく講義室に入ってきた、騒がしい奴。

睨むように顔を上げると、案の定の顔がそこにあった。


「大ニュース!! 聞いて!  ちょ、成也起きろ!!」

「うるせ-な。何だよ」

「落ち着いて聞けよ?」

「だから、なんだって」

「――昨日な」

「あぁ」

「人魚姫を見た!」


興奮気味にそう言った友人の言葉を聞いた瞬間、辺りがシンと静まり返る。

まった、コイツは訳の分らん事を。

悪い奴じゃないけど、どうも二次元の世界が入っている。

コイツも高校からの友達で、雅樹。

頭はいいはずなのに、時々意味不明な事を本気で言ってくる。


「何言ってんだ、お前」

「嘘じゃないって!」


呆れ顔でそう言った和志に、鼻の穴を膨らませて雅樹が熱弁を繰り広げる。

アホらしいと思って、再び机に突っ伏そうとした時、不意に声が上がった。


「えぇ~人魚姫って噂のぉ~?」


雅樹の騒がしい声に誘われて、周りに女や男がワラワラと寄ってきた。

だけど、上がった声に思わず俺も顔を上げる。
< 7 / 344 >

この作品をシェア

pagetop