人魚姫の涙
◇
ガヤガヤと騒がしい講義室。
いつもの顔ぶれの中に足を進める。
「お~成也おはよ~」
「おはよ~眠ぃ~」
同じゼミで高校からの友達の和志の姿を見つけて歩み寄る。
ストンとそいつの横に座って、机に突っ伏した。
どうも朝は苦手だ。
既にウトウトと目の前が暗くなった時、騒がしい足音が真っ直ぐこちらに向かってきた。
「ちょっと! 大ニュース! 大ニュース!!」
騒がしく講義室に入ってきた、騒がしい奴。
睨むように顔を上げると、案の定の顔がそこにあった。
「大ニュース!! 聞いて! ちょ、成也起きろ!!」
「うるせ-な。何だよ」
「落ち着いて聞けよ?」
「だから、なんだって」
「――昨日な」
「あぁ」
「人魚姫を見た!」
興奮気味にそう言った友人の言葉を聞いた瞬間、辺りがシンと静まり返る。
まった、コイツは訳の分らん事を。
悪い奴じゃないけど、どうも二次元の世界が入っている。
コイツも高校からの友達で、雅樹。
頭はいいはずなのに、時々意味不明な事を本気で言ってくる。
「何言ってんだ、お前」
「嘘じゃないって!」
呆れ顔でそう言った和志に、鼻の穴を膨らませて雅樹が熱弁を繰り広げる。
アホらしいと思って、再び机に突っ伏そうとした時、不意に声が上がった。
「えぇ~人魚姫って噂のぉ~?」
雅樹の騒がしい声に誘われて、周りに女や男がワラワラと寄ってきた。
だけど、上がった声に思わず俺も顔を上げる。