人魚姫の涙
「紗羅」
名前を呼ばれて、顔を持ち上げる。
すると、隣に立っていた成也がハラハラした様子で私の手元を見ていた。
「なあに?」
「危ない」
「え? 何が?」
「危ない! 危ない! 危ない!」
首を傾げる私の手元に視線を向けて、いよいよ我慢できなくなったように握っていたものを奪い取られた。
そして、奪い取ったソレでツラツラと器用にリンゴの皮を剥きはじめた。
「わ~、成也上手!」
「紗羅が不器用すぎるだけ」
「そうかな~?」
「怪我するぞ。紗羅は食器の準備してて」
「は~い!」
慣れた手つきであっという間にリンゴの皮をむいた成也に向かって手を上げる。
こうやって一緒にキッチンに立つ事も初めてだから、どんな小さなやり取りも楽しくて仕方ない。
今日はおばさんが会社の社員旅行とかで留守にしている。
だから、私と成也の2人っきり。
それがまるで新婚夫婦みたいでウキウキする。
今日が来るのを、ずっと楽しみに待ってた。