雨の庭【世にも奇妙なディストピア・ミステリー】
そんな時思い出すのは北の果てに放置されていたあの軽トラックだった。あれが使えたらいいのに。
不法投棄の見本のような放置トラック――北寺と給油口を覗き込んでも何も見えず、臭いをかいでみたがガソリンの匂いは一切しなかったから、おそらくタンクにガソリンは空っぽなのだろう。
(ガソリンかあー……)
ガソリンがあれば走らせることができそうだと北寺が言っていた。天蔵には売っていないガソリン。
ガソリンスタンンドがどこかにないか、なるべく見渡しながら自転車を走らせた。ここに来てもうすぐふた月になるが、そんなものは今まで見たことがなかった。
だがそれは車がないため必要を感じず無意識下でスルーしていただけなのかもしれない。
運んでいる最中、意識するようにはしていたが、この辺鄙な場所でガソリンスタンドが機能している光景をうまく思い描けなくもあった。