ふうこさんと見えない夏目くん
少しふらついたあと、佐々木くんの体が伸びをする。


「さっきぶり、逢沢さん」

「こんばんは夏目くん」


挨拶をすると、にこっと笑顔を向けてくれる。
えらい違いだ。佐々木くんと。
そんな夏目くんが私に近づいてきて、ビニール袋の中を一緒にのぞき込んだ。


「どうしてもやってみたいことあったんだよねぇ」


中から取り出したのは線香花火。


「花火今年まだやってなかったんだ。これ昨日佐々木に頼んどいたんだけど、ライター忘れちゃってさ、佐々木ライター買ってきたかな?」

「あ、ライター買ってたよ!」


なるほど、ライターはその為か。


「大きい袋で何個か買ってきてもらってたんだけど、隠そうにもバレそうだったからさ、中身だけ取り出してビニール袋にぶち込んでたの」

「はあ、それで中身だけなんだ」

「そそ。そしてこれ、全部やるよー!」

「はあ?!」

悠に100本はありそうな花火たちを前に、空いた口が塞がらない。

「まあ余ったらあの倉庫裏で地道に消費しましょ」

「夏目くん、それはさすがに、」

……まずいのでは?

そう思ったけど、夏目くんの楽しそうな、悪いことを考えてる顔を、好きだなあ、と思ってしまって言えなかった。
< 38 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop