ふうこさんと見えない夏目くん

「かわいいー」

泳ぐ金魚花火を目で追いながら、私の気分は最高に上がっていた。

「そうだねー、本当に金魚みたいでかわいい。俺金魚好きなんだよね」

「綺麗だし、かわいいよね」

「逢沢さんもかわいい、こんなことに本当に付き合ってくれてありがとうね」

あれ、佐々木くん、じゃない?
と思って顔を上げると、私の方を見て微笑む佐々木くんの顔があった。
……この顔で笑うのは、夏目くんだ。

「……夏目くん、突然出てくるね」

そう言って私も笑い返すと、夏目くんの手が伸びてきて私の頭を軽く撫でた。

「夏目くん……?」

「ごめんなんか、触りたくなって、」

壊れ物でも触るように、優しく夏目くんの手が私の髪の上をすべる。

「手、伸ばしてみたらちゃんと触れてびっくりしてる」

「そりゃあ、体は佐々木くんだしね」

「それもそうだ」

夏目くんには夏目くんの体がなくて、今私に触れているのは佐々木くんの手のひらで。
佐々木くんを通して夏目くんは"人に触れる"ということを、今どんな気持ちで感じているのだろう。

男の子に頭なんて撫でられたことない私は正直ちょっと動揺しているけれど、夏目くんがやりたいことを、やりたいようにやって欲しいと思ったし、そのまま素直に撫でられていた。
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