君がいない世界で生きるために
「俺は逃げたんだ……咲乃が死んだって事実から……」
私の言葉を、まるで聞いていなかった。
私は咲乃が死んだ原因を探る、と確かに言ったのに、それに関してはなにも言ってこなかった。
しかし、咲乃が死んだ事実から逃げたい、か……
「僕だって逃げたいさ。でも、逃げたところで咲乃が帰ってくるわけではない」
私は新城の隣に立つ。
屋上から眺める景色は、案外悪くない。
「偉そうに」
「同い年なんだ。偉そうもなにもないだろう。というか、上だの下だのくだらないと思わないか?」
すると、新城が微かに口角を上げた。
「面白い奴だな」
新城は柵を頼りに座っていく。
よく見れば冷や汗をかいている。
「あ……」
私は新城が怪我をしていることを思い出した。
「保健室、行かなくていいのか?」
「これくらいで行くかよ」
これくらいと言われても、ガラスを割っているのだから、切っているだろう。
今までの怪我に比べたら、という話なら別なのだろうが……
「まさか、咲乃と付き合っていたときもそう言って手当てをしなかったのか?」
咲乃は優しい子だ。
恋人の怪我を見て、黙っているとは思えなかった。
新城は答えなかった。
……図星か?
「……咲乃と出会って、怪我をしないようにしてた」