君がいない世界で生きるために
どうやら、ただ言いたくなかっただけらしい。
その証拠に、新城は私から顔を背けている。
……生徒全員に恐れられている新城とは思えないな。
「でも、切っているのだろう?治療は必要なはずだ」
「うるせえ。俺がいいって言ってんだからいいんだよ」
頑固者にもほどがある。
この場合、やせ我慢か?
ガラスで手を切っておいて、痛くないわけがない。
「よくない。新城にはこれから、咲乃が転落死した原因を探る手伝いをしてもらうのだから、くだらない怪我で衰弱されては困る」
新城は私の顔を見つめてきた。
「咲乃の……?お前、正気か?」
「当たり前だ」
私はさっきまで新城がしていたように、柵に両手を置き、街を見つめる。
「僕は今の今まで、咲乃がどんな事故で死んだのかも知らなかった。それがただの事故だったとはどうしても思えなかった」
「どういう意味だよ」
「それは咲乃と付き合っていたあんたが一番わかるだろ」
暴走族と付き合うということは、危険が付きまとうということに等しい。
新城も、それくらいはわかっているだろう。
「ただ、それを探るには限界がある。警察に知り合いがいるわけでもない。だから、協力者が必要だった」