君がいない世界で生きるために
「……ここだな」
新城はスマホをポケットに入れるが、インターフォンを押す気配がない。
「この期に及んでなにを躊躇っている」
「そりゃ躊躇うだろ。あいつらとは上手くいったけど、影山とはそう簡単にはいかないというか……」
聞くだけ無駄だった。
その心配をしてしまうことはわかるが、今さらだと思った。
「私のことは伝えているか?」
「名前は言ってないけど」
「わかった」
私はインターフォンを押す。
だが、相手の返事がなかった。
留守かと思ったとき、玄関ドアが開いた。
「影山……」
ドアから顔を覗かせた人を見て、新城が呟いた。
影山と呼ばれた男は、黒いパーカーのフードを被り、表情が見えなかった。
「……どうぞ」
私は初めて彼と会ったが、正気を失っているような気がした。
私たちは家の中に入る。
「あれ、智貴の友達?」
廊下を歩いていたら、影山の母親と思われる人が台所から顔を出した。
「……中学の」
母親の表情が曇った。
「そう……部屋に行くんだよね?お茶、持っていくね」
私たちは母親の前を通るときに睨まれたような気がしたが、会釈をして通った。