君がいない世界で生きるために

影山は申し訳なさそうに黙ってしまった。



また余計な口を挟んでしまったか。



「……悪い、続けてくれ」

「場所が悪かったんです。歩道橋の上で接触されて、守りに出ても咲乃さんを無傷で守れる保証も、逃げ切れる自信もなかった。だから、下手に出られなかった」



それでも守りに行ってほしかった、とは言えなかった。



いくらあの中で天使のように扱われていても、影山が命懸けで咲乃を守る理由はないだろう。



「それからしばらく二人は言い合いをしていたけど、その内容は聞こえてこなかった。あと、その間に敵はいなくなってました」



影山の説明は言葉が足りないように思った。



しかし影山の意識が咲乃にいっていたと考えると、敵がいついなくなっていたのかがわからなくても無理ないか。



「そんなに時間は経っていなかったと思うけど、大きな音がして、咲乃さんが階段から転落してきた。駆けつけてすぐに見上げたけど、すでに人影はなくて……」



追わなかったのか、とは言えなかった。



だが、この話で事件ではない可能性が高くなってきた。



そして影山の話は終わったのか、続きはなかった。
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