【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
ミナトは怪我が良くなるまで、一時的にタケルから休暇を貰う事になったらしかった。
当初は一切家を出る事が出来なかったミナトだったが、動けるようになってからは、こうして良く馬小屋に姿を見せるようになっていた。
馬達の世話の仕方は、ほとんどミナトが教えてくれた。
最近は一人で居る時間よりも、ミナトと一緒に居る時間の方が圧倒的に多い程だ。
"死ぬほど暇なんだよ"――――とは、こんなに馬小屋に来ていて大丈夫なのか、とカヤが問いかけた時の、ミナトの返答である。
「……お前、また痩せただろ。飯食ってんのか」
掃除も一段落し、せっせと飼い葉を運んでいると、カヤを眼で追っていたらしいミナトがそう言った。
「食べてる食べてる。ナツナがね、毎日ご飯持ってきてくれるの」
ミナトの前を行ったり来たりしながら、カヤは軽い調子で答える。
非常に有り難い事に、ナツナはカヤが屋敷内に足を踏み入れなくても良いよう、毎日ご飯を家まで運んできてくれた。
暑さのせいかあまり食欲が無いため、かなり少なめの量にして貰ってはいるが。
「ナツナのご飯、凄く美味しいんだよ。ほんと、お嫁に来てくれないかなあ」
「……阿呆」
冗談めいて言うと、ミナトが呆れたように溜息を吐いた。
「ところで、俺今日で足の包帯取れるんだけと」
運び終わった飼い葉を馬達が食べやすいように均していると、唐突にミナトが言った。
「え!そうなの!?」
カヤは思わず手を止めて、顔を綻ばせた。
ユタの言っていた通り、ミナトの自己治癒力は素晴らしいものだった。
日が経つにつれ、彼の身体をほとんど覆っていた包帯はみるみる減って行き、今では骨が折れている右腕と左足、そして矢が刺さった脇腹以外はもう巻かれていないそうだ。
"言ったでしょ、体力馬鹿だって"と、数日前ユタは笑っていた。
「良かった!やっと普通に歩けるようになるね!」
「まあ、しばらくは歩く練習からだけどな……で、やろうと思えば明日から稽古始められるけど、どうする?」
ニコニコと笑っていたカヤは、驚いて笑顔を取り去った。
「……え?良いの?」
「良いから言ってんだろ」
ふ、とミナトが苦笑いを漏らした。
"――――剣を教えてほしい"
カヤがそう申し出たのは、数日前の夕方だった。
それまでの天気が一変して夕立が降る中、この馬小屋で二人で雨宿りをしながら、カヤはずっと考えていた事を口にした。
「なんで?」と、開口一番にミナトはそう言った。
馬鹿にしたような口調は一切無く、思いの他真剣な表情をして。
カヤは自分の気持ちを素直に伝えた。
決して誰かを打ち負かしたいわけでは無い。
ただ、自分の身は自分で守れるようになりたい。
それがきっと大切な人をも守る事に繋がると思うのだ、と。
心臓が身体から引き千切られたような、あんな思い、もう二度としたくなかった。
当初は一切家を出る事が出来なかったミナトだったが、動けるようになってからは、こうして良く馬小屋に姿を見せるようになっていた。
馬達の世話の仕方は、ほとんどミナトが教えてくれた。
最近は一人で居る時間よりも、ミナトと一緒に居る時間の方が圧倒的に多い程だ。
"死ぬほど暇なんだよ"――――とは、こんなに馬小屋に来ていて大丈夫なのか、とカヤが問いかけた時の、ミナトの返答である。
「……お前、また痩せただろ。飯食ってんのか」
掃除も一段落し、せっせと飼い葉を運んでいると、カヤを眼で追っていたらしいミナトがそう言った。
「食べてる食べてる。ナツナがね、毎日ご飯持ってきてくれるの」
ミナトの前を行ったり来たりしながら、カヤは軽い調子で答える。
非常に有り難い事に、ナツナはカヤが屋敷内に足を踏み入れなくても良いよう、毎日ご飯を家まで運んできてくれた。
暑さのせいかあまり食欲が無いため、かなり少なめの量にして貰ってはいるが。
「ナツナのご飯、凄く美味しいんだよ。ほんと、お嫁に来てくれないかなあ」
「……阿呆」
冗談めいて言うと、ミナトが呆れたように溜息を吐いた。
「ところで、俺今日で足の包帯取れるんだけと」
運び終わった飼い葉を馬達が食べやすいように均していると、唐突にミナトが言った。
「え!そうなの!?」
カヤは思わず手を止めて、顔を綻ばせた。
ユタの言っていた通り、ミナトの自己治癒力は素晴らしいものだった。
日が経つにつれ、彼の身体をほとんど覆っていた包帯はみるみる減って行き、今では骨が折れている右腕と左足、そして矢が刺さった脇腹以外はもう巻かれていないそうだ。
"言ったでしょ、体力馬鹿だって"と、数日前ユタは笑っていた。
「良かった!やっと普通に歩けるようになるね!」
「まあ、しばらくは歩く練習からだけどな……で、やろうと思えば明日から稽古始められるけど、どうする?」
ニコニコと笑っていたカヤは、驚いて笑顔を取り去った。
「……え?良いの?」
「良いから言ってんだろ」
ふ、とミナトが苦笑いを漏らした。
"――――剣を教えてほしい"
カヤがそう申し出たのは、数日前の夕方だった。
それまでの天気が一変して夕立が降る中、この馬小屋で二人で雨宿りをしながら、カヤはずっと考えていた事を口にした。
「なんで?」と、開口一番にミナトはそう言った。
馬鹿にしたような口調は一切無く、思いの他真剣な表情をして。
カヤは自分の気持ちを素直に伝えた。
決して誰かを打ち負かしたいわけでは無い。
ただ、自分の身は自分で守れるようになりたい。
それがきっと大切な人をも守る事に繋がると思うのだ、と。
心臓が身体から引き千切られたような、あんな思い、もう二度としたくなかった。