【完】絶えうるなら、琥珀の隙間
当然ミナトは、すぐに首を縦には振らなかった。
「絶対に怪我するぞ」とミナトは何度も何度も言った。
「それは当然だし、全く構わない」とカヤもまた、何度も何度も言った。
日が暮れるまで押し問答を繰り返し、結局ミナトは「考えとく」とだけ言って、話しを切り上げたのだが―――――
「ぜ、是非お願いします!」
どうやらミナトは、カヤに剣の稽古を付けてくれる気になったらしい。
勢いよく頭を下げると、ミナトは「おう」と頷いた。
それから何故か分からないが、不敵な笑みを見せた。
「泣き出すなよ」
「……うん?」
言葉の意味が分からず、カヤは首を傾げる。
しかしミナトはそれ以上何も言わなかったため、聞き流す事にした。
―――――そして、カヤがその言葉の意味を知ったのは、次の日だった。
「脇絞めろ!あと左手下げんな!」
鋭い怒声が鳴り響き、カヤは慌てて脇を締め、左手を上げた。
「は、はい!」
「おい、背筋!後ろに傾いてんぞ!それだと初動が遅れる!」
「はい!」
炎天下の中、カヤはかれこれ半日は構えの練習で躓いていた。
晴れて足の包帯が取れたミナトは仁王立ちしながら、カヤの構えを事細かに指摘してくる。
基礎が出来なければ何も出来ない。
それは痛いほど分かっていたため、カヤは汗を滴らせながら、必死に構えを取った。
が、ミナトの指導のなんと厳しい事か。
「だから脇!絞めろって言ってんだろーが!何度言えば分かんだよ!」
「ごめんなさいごめんなさい!」
"泣き出すなよ"――――と。
昨日のミナトの言葉の意味を、カヤはひしひしと悟ったのだった。
「今日はそろそろ終わるか」
鬼のような指導の後、ようやくミナトがそう言ったと同時、カヤは疲労のあまりその場にへたり込んだ。
カヤは自分自身に驚愕していた。
ある意味、何だかんだで箱入り娘だったカヤは、自分がこれほどまでに運動神経を持ち合わせていない事を知らなかったのだ。
「構えの段階でここまで躓く奴は珍しい」
カヤに水の入った竹筒を手渡しながら、ミナトはぼそりと言った。
「め、面目ない……一つを気にすると、他の一つが抜けちゃって……」
それを受け取りつつ、申し訳なさに項垂れると、ミナトが肩を揺らして笑った。
「まあ、分かるわ。俺も初めはタケル様に死ぬほど怒られた」
なんとも驚きだ。ミナトが優しい。
てっきり「脳みそ米粒かよ」程度は言われると思ったのだが。
「ミナトにもそんな時あったんだね」
「当たり前だろ。滅茶苦茶ひ弱かったぞ。多分お前以上に」
そう言って、ミナトはどこか懐かしそうに眼尻を緩めた。
「絶対に怪我するぞ」とミナトは何度も何度も言った。
「それは当然だし、全く構わない」とカヤもまた、何度も何度も言った。
日が暮れるまで押し問答を繰り返し、結局ミナトは「考えとく」とだけ言って、話しを切り上げたのだが―――――
「ぜ、是非お願いします!」
どうやらミナトは、カヤに剣の稽古を付けてくれる気になったらしい。
勢いよく頭を下げると、ミナトは「おう」と頷いた。
それから何故か分からないが、不敵な笑みを見せた。
「泣き出すなよ」
「……うん?」
言葉の意味が分からず、カヤは首を傾げる。
しかしミナトはそれ以上何も言わなかったため、聞き流す事にした。
―――――そして、カヤがその言葉の意味を知ったのは、次の日だった。
「脇絞めろ!あと左手下げんな!」
鋭い怒声が鳴り響き、カヤは慌てて脇を締め、左手を上げた。
「は、はい!」
「おい、背筋!後ろに傾いてんぞ!それだと初動が遅れる!」
「はい!」
炎天下の中、カヤはかれこれ半日は構えの練習で躓いていた。
晴れて足の包帯が取れたミナトは仁王立ちしながら、カヤの構えを事細かに指摘してくる。
基礎が出来なければ何も出来ない。
それは痛いほど分かっていたため、カヤは汗を滴らせながら、必死に構えを取った。
が、ミナトの指導のなんと厳しい事か。
「だから脇!絞めろって言ってんだろーが!何度言えば分かんだよ!」
「ごめんなさいごめんなさい!」
"泣き出すなよ"――――と。
昨日のミナトの言葉の意味を、カヤはひしひしと悟ったのだった。
「今日はそろそろ終わるか」
鬼のような指導の後、ようやくミナトがそう言ったと同時、カヤは疲労のあまりその場にへたり込んだ。
カヤは自分自身に驚愕していた。
ある意味、何だかんだで箱入り娘だったカヤは、自分がこれほどまでに運動神経を持ち合わせていない事を知らなかったのだ。
「構えの段階でここまで躓く奴は珍しい」
カヤに水の入った竹筒を手渡しながら、ミナトはぼそりと言った。
「め、面目ない……一つを気にすると、他の一つが抜けちゃって……」
それを受け取りつつ、申し訳なさに項垂れると、ミナトが肩を揺らして笑った。
「まあ、分かるわ。俺も初めはタケル様に死ぬほど怒られた」
なんとも驚きだ。ミナトが優しい。
てっきり「脳みそ米粒かよ」程度は言われると思ったのだが。
「ミナトにもそんな時あったんだね」
「当たり前だろ。滅茶苦茶ひ弱かったぞ。多分お前以上に」
そう言って、ミナトはどこか懐かしそうに眼尻を緩めた。