危ナイ隣人
「瓶投げるやつがあるか!」


「もう空のやつじゃない。それに小瓶だし、軽く転がしただけだもん。普段鍛えてるんだからそれくらい大丈夫でしょ」


「大丈夫じゃねぇ、立派な傷害罪だぞ」



憤慨するナオくんを横目に、相変わらず京香さんはケタケタ楽しそうに笑っている。


これが2人のいつもの調子なのかもしれない。



「そういえば……京香さんはなんのお仕事されてるんですか?」



ふと気になって聞いてみる。


トレンチコートの似合う素敵な女性。きっと、仕事場でもキビキビ働いてるんだろうなぁ。



「私? えーっとね……しがない保険会社で営業をちょこちょこと」


「よく言うよ、超大手のくせに」



横から口を挟んだナオくんが言った会社名は、保険のことなんて何一つわからない私でも知っていた。


しかもそこ、就職するのけっこう難しいって、テレビが何かで聞いたことがあるような、ないような……。



「ずっとこっちの支店にいるのか?」


「んー、どうだろ。地元だから、やっぱり離れたくないって気持ちもあるのよね」


「そうか」


「でも、来年度から東京の本社に来ないかって話をもらって」


「え、すげぇじゃん!」


「まぁ栄転なのは間違いないんだけど……」



興奮気味のナオくんとは裏腹に、京香さんの視線は沈んでいく。


なんだろ……。京香さんの後ろで、ゴゴゴゴゴ、っていう効果音が聞こえるような。



「それをカレに言ったら、“君は俺がいなくても平気なんだな”とか言うのよ! それで浮気! アホか!」



カァン! と、さっきのナオくんの比ではないくらいの勢いで、京香さんがグラスをテーブルに叩きつけた。

割れてない? と、思わずグラスの安否を確認してしまうほどに。
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