危ナイ隣人
「あれ、茜。“むくつけし”って何活用だったっけ、ど忘れしちゃった」



各々に教科書を広げた生徒達は、各々に質問をぶつけてくる。


放課後のがらんとした食堂で各方面から教科書を向けられて、思わず目が回りそうになった。



タ、タンマ……!


白旗を上げそうになったところに、視界の端っこから人影が現れる。



「公式はそれであってる。ただ、3行目の計算を間違えてるから、落ち着いて見直せば中居さんにもちゃんと解けるはずだ。

あと、それはク活用だよ、立浪さん」


「あ……」


「それと……meetには、会うだけじゃなくて満たすって意味もあるんだって──前にも言ったろ、太一」



相変わらずの凹凸のない声で全ての質問を私からかっさらっい、難なく答えてくれたのは、塚田くんだった。


突然の登場に驚いて私の横に立った彼を見上げると、冷ややかな目で近藤を眺めていらっしゃる。

……近藤ってば、蛇に睨まれたカエルのごとく固まっちゃってるよ。

そういえば、スパルタだって言ってたっけ。



「噂には聞いてたけど、塚田くん頭もいいんだねぇ」



くるみの感嘆混じりの声には、私も頷くしかない。



「ありがと、助かったよ」


「いや。さすがに1人で教えるのは大変だろうって、立浪さんが連絡くれたんだ」



そうなの?


真帆に視線を送ると、私達の会話が聞こえていたのか、スマホを片手にパチンとウインク。


ナイス根回し! とは思うけど……わざわざ塚田くんに連絡して呼び寄せるなんて、本腰入れて生徒側に回ろうとしてるな?
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