危ナイ隣人
「そう、なんですか……」



昔の話をあまりしたがらないのは、何となく空気で感じてた。

だけどそれは、相手が私だからだと思ってた。


まさか、長年の付き合いの本郷さんにも多くを語っていなかっただなんて。



「でも……だからって、どうして私に?」



隣人で顔見知りだという程度の認識は、ナオくんのピンチを報せる理由としてはあまりに弱い。

あの時、私はナオくんのことを“真木さん”って呼んだはずだし、特別深い関係には見えなかったはずだ。


私の考えが読めたのか、本郷さんは険しかった表情を少しだけ緩めた。



「鍵だよ」


「え……?」


「直也が酔っ払って鍵を失くした時、家の前で拾ったって言って直也んちの鍵を渡してくれたでしょ?」



首を少し傾げた本郷さんに、私は顎を引いて返事をする。


ナオくんから預かっていた合鍵を、とっさに嘘ついて渡したんだ。



「あの時、おかしいと思ったんだよね。普段、鍵は全部キーケースに付けてる直也がさ、家の鍵だけを落とすなんて」


「あ……」


「直也の鞄の中に鍵の外れたキーケースがあったわけでもないし、これはもしかしてって」



もしかしてって……もしかして、変な勘違いされてる!?


いや、たぶん推理は合ってるんだけど!



「あの、べつに私達はそんな、トクベツな関係とかじゃなくて」
< 168 / 437 >

この作品をシェア

pagetop