危ナイ隣人
耳に手を当てて、電話をかけるジェスチャーをした本郷さんに、頷き返す。


それを確認した彼は、薄い緑とも青ともとれるような淡い色のカーテンの向こうに消えていった。



「…………」


「…………」



恐る恐る足を踏み出して、枕元の方まで歩いてみる。


ガーゼ以外は、いつも通りのナオくんだった。

だけど、そのガーゼがやけに目につく。



「早く目ェ覚ましてよ……。魔法にかけられて眠るお姫様、なんてガラじゃないでしょ」



どっちかっていうと、カボチャパンツ履いてお姫様を救いに来る王子様の方が、まだ似合ってる。

 
そんなことを言ったら、きっとナオくんは「バカ」って言うんだ。

それとも、俺はカボチャパンツをも着こなすぞとか自信満々に言うのかな。ちょっと言ってみてほしいな。

そしたら、私が「バカ」って言って笑うから。



かけられた布団から伸びたナオくんの手に、自分の手をそっと重ねてみた。


大きくてかたい手は、ちゃんとあったかい。

あの時とは違う。

ナオくんは、ここに、ちゃんと、存在してる。


頭ではそう、わかるのに……



「……っ」



ぐっと唇を噛んだ。

そうしないと、溢れそうになる涙を堪えられなかった。



「やくそくなんて、しなきゃよかった……っ」



ナオくんとだって……お兄ちゃんとだって。

こんな思いをするくらいなら、多くなんて願わなかったのに。
< 171 / 437 >

この作品をシェア

pagetop