危ナイ隣人
震える指先をごまかしきれなくてぎゅっと目を閉じた時──



「……か、ね……?」



今にも消えてしまいそうなほどか細い声が、鼓膜を優しく震わせた。



「なお、くん……?」



目を開けて顔を上げると、きっとすごく情けない顔をした私を、ナオくんの黒い瞳がおぼろげに映していた。



「なんでおまえが……」


「ほ、本郷さんに連絡もらって」


「あぁ……そうか、おれ……」



ナオくんの視線が宙を彷徨う。


自分の置かれた状況を整理していたのか、少し間を置いてから、彼は再び私に視線を向けた。



「……ったく……なんでそんなブサイクなカオしてんだよ」


「ブ、ブサイクって……!」


「あ、やべ……。これ……JKには禁句なんだっけ」



ナオくんが、力ない笑みを浮かべる。


普段から気怠げなナオくんの覇気が、いつも以上に感じられない。

だけど、紛れもなく、ナオくんだった。



「でもよ、その我慢したよーなカオ……やっぱり、ブサイクだぞ」



言葉とは裏腹に、ナオくんがあんまり優しく私を見上げるから、かろうじて涙を堰き止めていた防波堤が、決壊した。



「っだから! ブサイクってゆーな……っ」



ナオくんの姿が一気に滲んで、ほっぺたを雫が伝っていく。


やだ。泣きたくないのに、止まんない。



「すっごく心配したのに……起きたと思ったらブサイクブサイクって、ほんと信じらんない……っ」


「ははっ……悪かったな、俺、こんなんで。それから……心配かけて」



ほんとだよ。笑い事じゃないよ。

本郷さんから連絡をもらった時、ほんとうに心臓止まるかと思ったんだから。
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