危ナイ隣人
ここに来るまでの間も、心配と不安で押し潰されそうだったんだから。



「ナオくんのばか……っ」



こうやって言葉を交わして、ようやく安心できた。

無事だって聞いても、視線がぶつからなきゃ不安なままだった。


わかってる。

ナオくんはきっと、簡単にいなくなったりしない。


わかってるんだよ。

ナオくんは、お兄ちゃんとは違うってことも。


だって、お兄ちゃんに対してこんなに心が振れることはなかった。

こんなに、相手の瞳に自分が映るだけで幸せだなんて思うことはなかった。


多くを願ったらロクなことないって、わかってるけど。



「早く元気になんなきゃ、ゆるさない……!」



私──ナオくんが好きだ。



家事はしないし、タバコは吸うし、ギャンブルだってするくせにお酒は笑っちゃうくらい弱いし、息をするようにセクハラ発言するし。

何より、自分のことぜんぜん話してくれないようなひどい人だけど。



「そーだな。おまえ怒らせると怖えーもんな」



私のつよがりを見抜いちゃうとことか、いじわる言いながらも大きい手を伸ばして涙拭いてくれるとことか。



「つーか、頭痛ってぇ。俺、頭割れてた?」


「……割れてない。脳震盪だろうって」


「そーか。前後の記憶全然ねぇや、情けねーな」



普段テキトーなくせに仕事が絡むとマジメな顔しちゃうとことか、つらいはずなのに私にこれ以上心配かけないように明るく笑い飛ばそうとしちゃうとことか。
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