危ナイ隣人
この人のぜんぶが、私の心をぎゅって掴んで、離さない。



「記憶喪失にでもなってたら、まともな人に生まれ変われたんじゃない?」


「おいおい、俺が今、まともじゃない人間みたいじゃねーか」


「アハハッ」


「……なんだその渇いた笑いは」



だけど、この気持ちはぜったいに言えない。

ナオくんはこれでもオトナで、私はまだコドモだから。


ナオくんの世界は私よりずっと広くて、私の知らないことをたくさん知ってる。

きっと、恋だってたくさんしてきてる。


私が恋心に気付いたって、ナオくんが私のことをそういうふうに見てないことは、痛いくらいわかってるんだ。


なんたって、Aカップのガキには興味ないとか、Cからしか受け付けないとか、後ろ髪引かれるような恋愛は面倒とか言ってた……し……。



「あ、あれ? 私、これでいいのかな……」


「はぁ?」



一気に不安になった私に、ナオくんが怪訝そうに眉を寄せた時、視界の端でカーテンが揺れた。


ナオくんの視線の動きに釣られて私もそちらを向くと、スマホを片手に持った本郷さんが戻ってきたところだった。

慌てて、涙で濡れた目元を制服の袖で拭う。



「直也。気付いたのか」


「おう、今さっきな」



安堵の表情を見せた本郷さんに、ナオくんは片目を細めて応えた。



「悪いな、ちょっとヘマした」


「ほんとだよ。心配かけさせんなっつう」
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