危ナイ隣人
「悪かったって」



笑いながら言うナオくんだけど、その表情は心なしか歪んでいる。



大きなケガがなかったとはいえ、頭打ってるんだもんね。

心配かけないように振る舞ってくれてるだけで、ほんとはすっごくつらいのかもしれない……。



「つか、搬送直前の記憶全くねぇんだけど、要救助者は無事だったのか?」


「あぁ。誰かさんが身を挺してくれたおかげで、大きな怪我はなかったみたいだよ」


「そうか。よかった」



ホッと息を吐いたナオくんは、疲れの色を滲ませて少しの間目を閉じた。



あんまり長居しちゃダメだな。今更だけど、バカなこと言ってる場合でもない。

どうにか無事だってことは確認できたわけだし、頃合いを見計らってお暇しなくちゃ。



「もう聞いたかもだけど、大したケガはしてないってさ。でも、頭打ってるから、明日一般病棟に移動して、2、3日は入院して経過観察」


「まじで? 俺、明後日から仕事復帰できると思ってたんだけど」


「バカ言うなよ。ぶっ倒れてもその辺に転がしとくぞ」


「うわ、ひでぇ」



それと、と左手に持ったスマホを持ち上げて、本郷さんがにっこり笑う。



「班長から伝言。現場でケガして搬送されるなんて鍛練が足りない! だってさ。戻って来たらみっちり鍛えてやるって言ってたから、覚悟しといたほうがいいんじゃない」


「嘘だろ」


「嘘だったらよかったな。んじゃ、仕事残ってるし、俺はこれで帰るから」
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