危ナイ隣人
薄いクリーム色のスライド式のドアの向こうで、あどけない声が無邪気に響いている。

お見舞いに来たのかな。患者さん……じゃないといいな。

だけど、誰かに会いに来た側だってつらいこともあるんだって、私、知ってる。



「来月の、13日。ホワイトデーの前日に……お兄ちゃんのところに、連れてって」



やがて、幼い声は聞こえなくなった。

エレベーターに乗り込んで家路についたのか、病床に戻ったのか、はたまた会いたかった人会えたのか。

もしかすると、誰か大人の人に静かにしなさいって言われちゃったのか。


こんなこと考えたって意味ないし、仕方のないことってわかってるんだけど。

こんなことを考えられてしまうくらい、この空間に落ちた沈黙は長かったんだ。



「13日って……直也の仕事は休みが不規則だし、難しいんじゃない?」



その沈黙を破ったのは、静止画のように固まってしまったナオくんではなく、京香さんだった。



「今この場で約束できないだろうし、何か買ってもらったほうが……」


「仕事だったら、その前後とかでも大丈夫だから。その日は……お兄ちゃんの命日なの」


「茜ちゃん……」


「お父さん達、今年は帰ってこれないって言うし……私だけでも行きたいと思ったんだけど、交通の便が悪くて、1人で行くのは難しそうだから」



お兄ちゃんと何の繋がりもないナオくんに、こんなことを頼むなんて迷惑だってわかってるけど……どうしても、会いに行きたいんだ。
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