危ナイ隣人
「お兄さんの命日だから、こんな風に言うのもあれだけどさ」


「ん?」


「楽しんできなよ。“好きな人”と初めてのお出かけでしょ」



真帆……。


穏やかに目を細めて真帆が言うから、不覚にも、グッときてしまう。


どこか特別な場所に行かなくたって、一緒にいる時間がきっと特別なものになるから。



「……うん、ありがとう」



好きだって気持ちに気付いてからも、ナオくんの前では出来るだけ意識しないようにしてた。


気を緩めたらすぐ表に出ちゃいそうだったし、向こうにそんなつもりがあるはずないし。

今まで通りにしようって、精一杯頑張ってた。


……もちろん、今まで通りのふざけた会話もしましたとも。

これはもう、反射だから仕方ない……。



でも、2人がこんなふうに背中を押してくれるなら……うん、いいよね。

1日くらい、好きな人の一挙手一投足に心を躍らせる、“恋する女の子”を楽しんだって。





そして、約束の日。

時計の針が正午を指す少し前、インターホンが鳴った。


とうに支度は済ませてたから、上着と鞄を持って慌てて玄関へと走る。



「悪い、待たせたな」



扉を開けると、おでこが出てない、オフモードのナオくんが立っていた。


いつも出かけるときは前髪を上げてるし、家にいる時は部屋着だから……髪をセットして、ちゃんとした服を着てるナオくんは新鮮だ。
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