危ナイ隣人
私がこうなったのはあんたのせいなんだから、責任とって涙拭いてよ。

いつかしてくれたみたいに、軽口叩きながら笑ってよ……。



「……そうだよ」



微かに鼓膜を震わせた愛しいはずの声は、いつもと少し様子が違う。


影が動いたかと思えば、ベッドから降りて扉に向かって歩いて行く。



リビングで、明るいところで、話してくれるの?

ご飯食べながら、笑いながら、話してくれる?



淡い期待は、容赦なく打ち砕かれる。



「もう、会うのは終わりにしよう」



抑揚のない、冷たい声。

その向こうに、押し殺した感情がいるような気がするのに、私からはなんにも見えない。


いつだってそうだった。

ナオくんは、自分のことを話そうとしなかった。



いやだよ。

行かないで。

終わりなんて、言わないで。



「俺がお前の兄貴を……圭太(けいた)を殺した」


「……え?」


「俺は、お前に関わっていい人間じゃなかったんだ」



最後にごめんなと呟いて。

彼は、部屋を出て行ってしまった。



ナオくんが放った言葉の意味がわかんなくて、難しくなんかないはずの単語を何度もなんども頭の中に反芻した。


オレガ──コロシタ。

オマエノアニキヲ。

カカワッテイイニンゲンジャナカッタ。



何度繰り返しても、一つも理解できなかった。
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