危ナイ隣人
「……っ」


「──茜ちゃーん!」



シャボン玉が弾けるのを見届けた瞬間、夕焼けに包まれた世界に吹いた強い風に乗って、芯の通った高い声が私を呼んだ。


なびく髪とぐるぐる舞うシャボン玉の間を縫って目を凝らすと、堤防の上に人影が見えた。


眩しい西日が逆光になって、シルエットははっきりと確認できるのに、顔は見えない。



こういうの、なんて言うんだっけ。

いつか、古典でやったやつ。


ええと。……あぁ、そうだ。

誰そ彼(たそがれ)だ。



「茜ちゃん! 久しぶり!」



向こうからは私がはっきり見えているのか、ぶんぶんと手を振るその人の声には聞き覚えがあった。


この声……!



「京香さん!?」



何事かと堤防の上に視線を向けていたみんなに断って、シャボン玉のボトルを手早く閉めてからシルエットに駆け寄った。


階段を上り切る数歩手前で、ようやく顔がはっきり確認できる。

やっぱり、京香さんだった。



「うわー、久しぶりだねぇ! 元気だった?」


「はい。京香さんは?」


「見ての通り! 元気だよー」



紺色のパンツスーツ姿の京香さんは、太陽に負けないくらい明るい笑顔を私に向けてくれた。
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