危ナイ隣人
「私、京香さんに聞きたいことが──」



──プルルルルル……


意を決して絞り出した声を、今度は機械音が遮った。

声に詰まった私に申し訳なさそうにしながら、京香さんがベージュの大人っぽいバッグの中に手を突っ込む。



「ごめん、取引先だ。出るね」



断って、私の返事を待つことなく京香さんは電話に出た。



「お世話になっております、高倉です──」



完全に仕事モードに切り替わった京香さんは、いつもとは違った様子で電話相手と言葉を交わしている。

なんかすごい、デキる女性って感じ。


こんなに完璧な人と、お兄ちゃんは知り合いだったの?

ナオくんの2つ先輩って言ってたから、お兄ちゃんとは同級生だよね。

ってことは、高校の友達? 部活も同じ?



堤防の下に視線を向けると、真帆達3人がたくさんのシャボン玉を風に乗せているところだった。


目の前にいる京香さんや、火事なんかの現場に駆け付けるナオくんとは違って、私達の世界はそんなに広くない。

限られた世界で、きっと多くの大人に守られて、私達はこうやって無邪気に笑えてる。


そんな無邪気な時代から、一体どんな経験を重ねれば、2人みたいな大人になれるんだろう。



──『これだけの人を救っても、あんたはまだ自分を許さないのね』

初めて京香さんに会った時聞いたこの言葉。
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