危ナイ隣人
『……いや、やっぱりいいや』


『こんな時に何よそれ』


『ごめんごめん。じゃあ、後でな』



そう言って、圭太の方から切られた電話。


──まさかこれが最後に聞く圭太の声だなんて、思わなかった。





路地裏に響いた悲鳴のような叫び声を頼りに私が直也の元に駆けつけた時……圭太の意識は、もう既になかった。


傷やアザだらけになった直也に抱き抱えられた圭太は、頭から血を流して降り積もる純白の雪を染めていて。



どうやって呼んだかもわからない救急車で圭太と直也は病院に搬送されて、圭太は結局、そのまま息を引き取った。





茜ちゃんは、……そう。ご両親からは事故って伺ってるのね。


間違いではないわ。あれは一種の事故……なんだと思う。



更生した直也と、昔つるんでたガラの悪い男達が偶然会って……声を掛けたそいつらを直也は軽くあしらって。

その態度に腹を立てた男達が直也を路地裏に連れ込んで、殴って、蹴って。

それでも直也はやり返すことなく、冷たく降り続ける雪の中、ただその理不尽な暴力を受け止め続けて。
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