危ナイ隣人
嫌だよ、いかないで。


だって私達はあのマンションの隣人で、だから出会って、それ以外の繋がりなんてなかったはずで。



そんなことしたら、ほんとにもう会えなくなるのに。



「こんな俺のこと、信じるって言ってくれてありがとな」


「や……っ」


「元気で」



ポンと傘を開く乾いた音が、雨音の隙間から聞こえる。


いつの間にか落としてしまっていた視線を上げると、ナオくんが雨の中、繰り出そうとしていた。



行かないで。

嫌だ、傍にいて。


そう思ったって、言葉は何一つ声にならない。





そして、大好きな人の背中は、冷たい世界に融けていった。




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