危ナイ隣人
「お互いに、誠実に向き合うこと。絶対に不義理なことはしないでくれ」


「はい」



お父さんの真剣な眼差しに、ナオくんもまた、真剣な眼差しで返した。


ふっと、凝り固まっていたお父さんの表情筋が緩む。



「真木くん。茜のこと、頼んだよ」



お父さん……。

思いがけないお父さんの言葉に、じわりと涙が浮かびそうになる。


危ないあぶない。

ギリギリのところで堪えたけど、気を抜くと大号泣コースだよ。某議員もびっくりなくらいの。



「はい」



掴めそうなくらいはっきりと言い切ったナオくんの横顔に迷いなどなく、真摯に前を見つめている。

その端正な横顔に思う。



私、やっぱり、ナオくんを好きになってよかった。





「ホテルまでお送りしなくて、本当に大丈夫ですか?」


「あぁ。荷物も少ないし、歩いて行くよ」



絵の具が撥ねたようにぽつぽつ星が煌めく夜空の下、マンションのエントランスの前で、お父さんが晴れやかに言う。


今日、お父さんとお母さんは、4駅先にあるホテルに泊まることになっている。

うちに泊まればいいのに、と思ったんだけど、今日私が退院できるかどうかわからなかったから、病院に向かう道すがら、宿を取っちゃったんだって。
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