危ナイ隣人
黒いTシャツの袖を肩までたくし上げたナオくんが、眉間に皺を寄せて立っていた。


ひぇっ。

怖い! 身長185センチの成人男性の不機嫌そうな顔、しかも座った姿勢から見上げるの、迫力満点で怖いっ!



「なんで急に逃げんの」



非難するように言われて、ぐっと息が詰まった。

鋭い煌めきを宿した目に捉えられて、もうどうすることも出来ない。


逃げられない。

そう思ったら、今度は目の奥が熱くなった。


視界を滲ませた私を見て、ナオくんがギョッとする。



「え。ちょ、なんで泣いて……」


「泣いてないっ」


「しっかり涙声じゃねーか!」



違うもん。涙じゃなくて鼻水だもん。

(かぶり)を振って目元を拭った腕を、大きな手にパッと掴まれた。


そのせいで目元が再び露わになって、私の前にしゃがみ込んだナオくんと目が合う。



「どうしたんだよ」



困ったように眉を下げるナオくんの声は、もう怒っていなかった。

そのことに安心して、また波が押し寄せる。


大好きなのに。大好きだから。



「うまく出来ないんだもん……っ」



ぎゅっと瞑った目から、雫が弾ける。

目の前のナオくんが困惑気味に「え」とこぼしたのが聞こえたけど、返答を待つ余裕はなかった。



「ナオくんは慣れてるんだろうけど、私は違うもん。ナオくんのカノジョになってから、こうしてゆっくり過ごすの初めてで、どうしたらいいかわかんなくて」
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