危ナイ隣人
足元のラグの上に置いていた小さな紙袋を取り出して、ローテーブルの上を滑らせる。



「これをお渡ししたかったんです」


「え……?」



紙袋には、若い女の子に人気のジュエリーブランドのロゴ。

でも、ショッパーのデザインは私が知るものじゃない。


差し出された京香さんは表情を一転させ、困惑を滲ませた。



「いいから。見てみ」



ナオくんに促されて、京香さんは相変わらず綺麗なネイルが施された指先を伸ばした。

京香さんの緊張を感じ取った瞬間、私も同じくらい緊張していることを自覚する。



彼女が紙袋の中を覗き込んだ瞬間──



「こ、れ……」



京香さんが息を呑んで、場の空気が変わる。


そして、その大きな瞳が水面に響くように揺れた。



「お兄ちゃんの部屋のクローゼットの中で見つけたんです。ほんとはもっと早く渡したかったんですけど、遅くなっちゃってごめんなさい」



ぺこっと頭を下げるけど、彼女は大きく目を見開き、手を薄紅が引かれた口元に当てたまま、微動だにしない。


そうなる理由が私もナオくんもよくわかるから、2人とも、中身を取り出すよう促したり声をかけることはしなかった。



少しして、京香さんの震える指先が1枚のカードを取り出した。


それは確認するように目の前まで持ち上げられ、



「……っ!」



京香さんの頬は堰が切れた涙に濡れた。
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