危ナイ隣人
仕事中ってことは……駆け付けた先の現場で? それとも、訓練中?



「救助隊って、火災現場だけじゃなくて事故現場とか、色んなところに行くんだよね?」


「あぁ。要救助者を助けることが任務だからな」



特殊なケースならまた別の部隊が向かったりするんだけど、と何やら専門的な言葉がナオくんの口から出てくる。



組織って複雑なんだなぁ。

ナオくんに出会うまで、消防署には、消防車に乗る消防士さんと救急車に乗る救急隊員しかいないと思ってたくらいだもん。


組織図とかをイチから説明してもらっても、理解できる自信ないかも。



「傷、他にもあるの?」


「いや? 普段は活動服着てるし、跡残るような傷はないと思うけど」



ナオくんはそう言うけど、前に、火災現場で頭を打って搬送されたのを思い出す。


あの時、ナオくんがいなくなっちゃうんじゃないかって、すっごく不安だった。



「……もう増やしちゃダメだからね」



私を包み込んでくれる大きな温もり。


もしも、この温もりがなくなってしまったら。

そんなこと、考えるだけでも視界が滲みそうになる。


こういう職業の人を好きになった宿命だって、頭でわかってはいるんだけど……。



「バーカ」



グッと下唇を噛んだ瞬間、ナオくんの大きな手が私の額を軽く(はた)く。


あまりに突然の衝撃に、思わず目をぱちぱち瞬かせた。
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