危ナイ隣人
「な、何す……」


「お前の中の不安を叩き出したんだよ。痛くなかっただろ」


「痛くはないけども」



振り返って抗議しようかと思ったけど、やめた。


なんか、たぶんだけど、そういう空気じゃない。


案の定、次に聞こえたナオくんの声は、少し掠れて優しかった。



「圭太のこともあるし、お前が不安になるのもわかる。……でも、やっぱりどうしても、俺らの仕事には危険がついて回るんだ」


「……うん」



わかってるよ。

仕方ないことなのも理解してるつもりなの。



「でも、必要以上に不安にならないでくれ。最近気付いたけど、俺、お前の困った顔に弱いんだ」



太ももの上に落としていた私の手を、ナオくんが掬い上げる。


たかが隣人が、なんて言われる日はとっくに過ぎた。



「帰るべきところでお前が待っててくれるなら、俺は必ず、お前の元に戻ってくるよ」



背後にいるナオくんの表情は見えないけど、すごく優しい顔をしてくれてるんだって、安易に想像できる。


すごいな、ナオくん。

不安が一瞬にして吹き飛んで、代わりに安心感で満たされちゃったよ。



「待つよ。ご飯用意して、ちゃんと待ってる」



ナオくんの言葉が嬉しくて、ついつい声に熱がこもる。


その様子を見て、ふっと柔らかく空気が震える気配がした。敵わないな、と思う。



「ありがと、ナオくん。すぐ不安になっちゃうようなコドモでごめんね」


「織り込み済みだ。つーか、あんまり急いて大人になってくれるな」


「え? どうして?」
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