危ナイ隣人
「言い訳なんて、ない。……ごめんなさい。嘘つきました」



声が震えてしまわないように、握り締めた拳に力を加える。


床に視線を落としたナオくんは、眉間に皺を寄せながら、ただ私の言葉を待っていた。



「知られたくなくて、言わなかった。クジで決まったとは言え、他の男の子とのキスシーンがある役だってこと。

……避けられないなら、せめてナオくんだけには知られたくない、間違っても見られたくないと思って……嘘ついた」


「…………」


「ナオくんが今日来てなかったら……ずっと、言わないままだったと思う。……ほんとに、ごめんなさい」



知られちゃいけない。知られたくない。

そんな自分の気持ちばかりを優先して、大好きな人を傷つけた。


何も知らされずに舞台を見たナオくんの衝撃は、どれほどの深さだっただろう……。



「……俺は、お前が思ってる以上に、お前のことを信じてるつもりだ」


「へ……?」



視線を上げると、難しい顔をしたナオくんと目が合った。


いつもは見上げるけれど、机に腰かけているせいで、今は少しだけ低い位置。

しかし、絡んでいた視線は、ナオくんの方から解かれる。


そんなことに一々傷つくなんて……そんな資格、私にはないのに。



「やましいことがあるとか、そういう疑いは微塵もねぇ。俺に知られたくないって思った気持ちも、理解出来ないこともない」


「ナオく……」


「でも、嘘をつかれて他の男とのあんなシーンを見せられるのは……堪えた。

ちくしょう、俺は我慢してんのに、なんでそいつは許されてんだって。自分らしくねーのはわかってっけど、頭に血が上った」
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