危ナイ隣人
中庭の方から、賑やかな音が聞こえてくる。


けど、私達が今いるこの空間は水の落ちる音も響きそうなほどに静かで、感情を隠す隙間を見つけられない。



「我慢、してるの……?」



予想の斜め後ろから飛んできた言葉を思わず拾い上げると、綺麗にセットされた黒髪が忌々しそうにかき乱される。



「我慢してるに決まってんだろ! 好きな女なんだから!」



……え。


半ばやけくそに放たれた告白は、私の顔を真っ赤に染め上げるには十分だった。



「好きで付き合ってんだから……際限なく触れたいって、そう思うのが普通だろうが」


「っ!」


「……でも、ご両親にも誓ったんだ。大人として、分別は守るって。

あの約束がなくたって、俺達は恋人である前に、17歳の子どもと25歳の大人だ。

お前が制服を着てる間は、何があってもそのラインは越えられない」



肘までまくられた袖から伸びる鍛え上げられた腕は、私よりも何周りも太くて逞しい。


ここに達するまでにナオくんが費やしたであろう時間を、私はまだ生きていない。
 


私の恋人であるよりも前に、ナオくんは大人。

……こうして、私の失態をも受け入れようとしてくれるくらいに。


誠実でいようとしてくれるナオくんに、私はなんてことをしてしまったんだろう。



「ごめんなさい。もう絶対、ナオくんの信頼を裏切るようなことはしない。嘘だって、絶対に吐かない」


「……そうしてくれ。俺だって、これから先も無条件にお前のことを信じたい」
< 387 / 437 >

この作品をシェア

pagetop