危ナイ隣人
「だって、2メートルあったら……ナオくんの全部を包み込める」


「え……?」


「精神面じゃ無理だもん。敵わないもん。だったらせめて、物理的に」


「ぶはははっ」



今度は声をあげて笑われた。

失礼しちゃうわ。2割くらいは本気で言ってるんだけど。


笑い転げている間も、私を抱き留めた逞しい腕は解かれない。



「さすがの俺も、2メートルの彼女はやだよ。……ていうか、今のままの茜でいい」


「……っ」


「……あ、嘘。乳だけはもう少し成長してくれると嬉しい」



大真面目な声色で言われて、反射的に頭にチョップをお見舞いする。



「ってぇ!」


「サイテーなこと言うからでしょ!?」



せっかくいいこと言ってくれてたのに、雰囲気ぶち壊し!


そうでしたそうでした。

フィルターかかってて、最近すっかり忘れちゃってた。


この人、こんな人でした!


ちょっとでも嬉しいと思った私がバカみたいじゃんか。



「どうせ、これまでお付き合いされてきた方々の足元にも及びませんよーだ!」


「これまでって……なに、気にしてんの?」


「ばっ……そんなんじゃないし! もういい。戻る!」



ナオくんの腕を振りほどいて、廊下へと繋がる扉に向かって歩き出す。


ナオくんなんかほっといて、早く戻ろう。

真帆とくるみ、きっと心配して待っててくれてるだろうから……。



スライドドアの取っ手に手を掛けたところで──体の重心が後ろに逸れた。


ついさっき離れたはずのぬくもりに再び捉えられている、と理解したのは、背中に心地よいリズムが伝わってきたから。
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