危ナイ隣人
「買ってこ」



レモンティーは買ってもらっちゃったし、私はこれを買おう。


ナオくんが疲れた様子を見せたら、サラッとガムを差し出すんだ。私ってば、デキる女!



「ありがとうございましたー」



レジを通したガムを持って、今度こそコンビニを出る。


自動ドアを抜けた瞬間、びゅうっ強い風に髪を巻き上げられた。



「寒ぅ……」



冷たい空気が、肌をチクチク刺す。痛い。寒いっ!


ほんとにこんな冷たい空気の中でコーヒー飲んでるの?

確かに、寝ぼけ眼も覚めちゃうけど!



少し離れたベンチに、見知った2人の後ろ姿を見つける。


せめて早く、ホットレモンティーの暖が欲しい。

並んだ後ろ姿めがけて、小走りで走る。駐車場なので、もちろん車が来てないことを確認しながら。



あと5メートル、4メートル……。

3メートル。声をかけよう、そう思った時。



「──あんたの異動のこと、まだ茜ちゃんに話してないんでしょ?」



京香さんの潜めたような声が、風に乗って耳に届いた。

瞬間、ぴたりと足が止まってしまう。



「……まぁ」


「早く言いなさいよ? 試験とか訓練とか……少なからず、今のままじゃいられなくなるんだから」



え……?


京香さんのため息まじりの言葉は、私の世界を真っ暗にするには十分だった。



どういうこと……?

異動って……京香さんじゃなくて、ナオくんが?

私、そんな話、一つも聞いてない。



買ったばかりのガムとお財布が、左手から滑り落ちる。


それらが地面に叩きつけられた瞬間、2人が弾かれたように振り向いた。
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