危ナイ隣人
ナオくんてば、思わず関西弁になっちゃってるよ。そうさせてごめん。


こうでもしないと、また泣いちゃいそうで。



唇を噛む私の手を握る力が、より一層強くなる。



「俺の人生を変えたのは、紛れもなくお前だよ。お前のおかげで、俺はまた夢を持つことが出来たんだ」


「……っ」


「だからさ。例え、茜が想像してたみたいに遠く離れるようなことがあっても、どんな困難に遭っても、俺はお前を手放すつもりはない」



ガラガラと音を立てて。今を信じると決めた私の決意を、ナオくんが優しく崩していく。


見えないはずの未来を、確実な明日へと変えていく。



「これからもずっと一緒にいような、茜」



照れくさそうにはにかんだナオくんの顔が、じわりと滲んだ。


堪えていたものが、堰を切ったように溢れ出す。



「っつぅ……」


「おいおい、泣くなよ。ブサイクになってんぞー」


「ブサイクは禁句だって言った……っ」


「ははっ、そうだったな」



覚えてるくせに。わかってて言ってるくせに。


ブサイクにさせてるの、ナオくんじゃんか。



「なぁ茜。もういいか?」


「……へ?」



突然の呼び掛け。

明日のことを考えずに目元をごしごし拭うと、あぐらをかいたナオくんが両手を広げて待っていた。



「そろそろ我慢の限界」



今日のナオくんは、表情がコロコロ変わる。

今は、すっごく恥ずかしそう。


こんな顔をするなんて、出会った当初は知らなかったよ。

ナオくんにだけしか見せることの出来ない表情があるように、ナオくんにも私にしか引き出せない顔があるって思ってもいいのかなぁ。
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