危ナイ隣人
「うん。でも、茜ちゃんのせいだけでこうなったってのも憶測だよね」


「それはそうかもしれませんけど……!」



これが大家さんの優しさだってこと、わかってる。


まだ高校生の私を思いやってくれてるって、ちゃんと伝わってる。


 でも……!



「自分の足でしっかり立とうとするのは尊いことだけどね」



大家さんのシワがいっぱい入った手が、頭にぽんっと優しく載せられる。

その温もりが、誰かのものと似てる気がして。



「気を張ってばっかりじゃ疲れてしまうよ。甘えられる環境にあるなら、甘えてしまいなさい」



言われて──あぁそうか、この人はお父さんの恩師だったっけ、と思い出す。


卒業して何年も経って、未だにこうして繋がってるんだもん。──知ってても、不思議じゃない。



「……すみません、本当に。ありがとう、ございます」


「気にしないで。お父さんには僕からは何も言わないから、報告するのかしないのか、君が判断しなさい」



私が折れると、大家さんは満足そうに目尻を下げた。

終始穏やかに微笑んで最後は判断を私に委ねて。この人は、たぶんだけど穏やかなだけの人じゃないんだろう。


甘えることしかできない自分が悔しくて、わかりました、と小さく答えた声は掠れた。





大家さんをエレベーターのところまでお見送りして、404号室に戻る。
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