危ナイ隣人
「うん。言ってなかったっけ?」


「聞いてないよ! びっくりだよ」



エレベーターのボタンを押しながら、ナオくんの顔を覗き込む。


そうだっけ、と気怠そうに呟くナオくんはやっぱり背が高くて、近くに立つといつも見上げる形になる。


この前聞いたら、身長が185センチもあるんだって。20センチくらい分けてほしいよ。



「じゃあ通勤はいつも車?」


「いや、歩き」


「歩きで行けるって、どんな仕事場なの?」


「そりゃあ──」



上の階から到着したエレベーターに先に乗り込んだ背中に問いかけると、彼は『1』のボタンを押しながら答えかけて、

かかった! と思ったのも束の間、



「ってあっぶねぇ、言いかけた。素直で純粋な俺様をハメようとしたなコラ」



くるりと振り向いて、さっきとは違って乱暴に私の頭を掻き乱した。


ひっつめてまとめたおだんごがボサボサになった姿が、エレベーターの中の鏡に映る。



「ぎゃっ! せっかく髪まとめてたのに!」


「ははっ、メデューサみたいになってんぞ」


「天パだから特に湿気にやられるんだよ! やった本人がそんなに笑うのナシ!」


「へぇ、天パなのかそれ。いつにも増してクルックルだなぁと思ってたんだよな」


「ねぇ、人の話聞いてる?」
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