危ナイ隣人
「エスコート致しましょうか、プリンセス」


「結構ですわオウジサマ」



おちゃらけたナオくんの態度を一蹴して、キーの開いた車の助手席に乗り込む。


革のシートの匂いと、ナオくんが吸っているタバコの匂いが微かに車内に充満している。


 
……この匂い、やっぱりどこか懐かしい感じがするのはなんでだろう?

初対面の時に感じた懐かしさは、今もたまに感じることがある。

1ヶ月前はまだ他人同士で、懐かしさなんかあるわけないのに。不思議だなぁ。



「一番近いスーパーには駐車場ねぇから、遠くなるけど他のところ行くな」


「うん、わかった。お願いします」


「おー。見事なドライビングテク見せてやるけど、惚れんじゃねぇぞ」


「心配には及びませんのでお気遣いなく」



見事なドライビングテクニック……かはわからないけど、私達を乗せた車は迷いなく駐車場を出た。

最近になってようやく慣れてきた景色が、いつもの何倍ものスピードで移り変わっていく。



「嫌な雨だね」


「そうだな」



フロントガラスを打ち付ける雨はさっきよりも激しさを増して、ワイパーはせっせと仕事をしている。

それでも滝のように流れる雨水が、私達の間に流れる空気に少しだけ静けさを加えているような気がした。
< 73 / 437 >

この作品をシェア

pagetop