危ナイ隣人
「ナオくんだ……っ」



根拠なんてないけど、そう思った。絶対そうだって思った。



傷だらけだった腕。リビングに置かれたトレーニング器具。

不規則な生活サイクルも、あれがナオくんだとしたら納得がいく。


いつもあんなにテキトーで、タバコだって吸うし、部屋は汚いし。

見た目はいいけど口を開けば誠実さなんて少しも感じられないのに、オレンジ色の制服を着て、消防隊員として人のために働く姿なんて想像もつかないし、信じられない。


だけど何より、ナオくんが今ここにいないこと。

それが、この不確実な推測の信ぴょう性を高めているような気がして。



「……っ」



テレビの画面を食い入るように見つめてみたけれど、彼らしき人物の姿はもう映らなかった。



緊迫した現状の中で、彼は今、たぶん、最前線で頑張ってる。


それでも、テレビに映ったあの人がナオくんでなければいいと思ってしまうのは、よくないことかな。



「おねがい。無事に……帰ってきて」



危険な現場にいる。

何が起こるかわからないこの状況で、私が今出来るのは、祈ることだけだ。




朝になって大雨警報は解除されていたけれど、大雨の影響で地面より低い位置に設けられた駅がいくつか浸水したとかで生徒全員の登校を保証できないからって、引き続き次の日も臨時休校になった。


氾濫危険水位に達しかけた川も、ギリギリのところで持ち堪えて、街に大きな被害はなかったみたい。



『うちの地元は大丈夫だったよー!』



グループでのテレビ電話で、笑顔を弾かせたのはくるみだった。

水が溢れそうだった川はくるみが住む市を流れていて、無事はわかっていたけれど、その報告を本人から聞けたことにホッとする。
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