危ナイ隣人
私の提案に、今度こそナオくんは視線を向けた。


一瞬視線が絡んで、それから宙をぼんやり見つめる。



「ま……それくらいなら」



少し考えるような素振りのあと、ナオくんの承諾が下りた。


それくらいならって……なんだその渋々って感じの言い方!



「嫌ならはっきり言いなよ。気ィ遣うなんて似合わないことしてないでさ」


「はぁ? 俺がいつ嫌って言ったよ」


「顔が言ってた。すっごいめんどくさそうだった」


「めんどくさそうとか、俺に限ってはいつもだろ……」 



気怠げにため息を吐いたナオくんが、頭をガシガシかきながらソファーからのそりと立ち上がる。


何をするのかと思いきや、彼はテーブルの上に置いてあったタバコとライターを手に取って、ベランダの扉を開けた。



「べつに嫌じゃねぇって」



カチッと音を立てて、ナオくんのタバコに火が灯される。

ゆらゆら、ほんの数秒だけ自由に泳いだ煙が、外の空気と混じって消えていく。



「ただ……公務員の家にJKが頻繁に出入りするなんてマズいかもなーと思ったんだよ」


「……は?」



タバコをくゆらせながらこちらを向いた顔は、なぜかキメ顔。

むかつく顔って、たぶんこういうのを言うんだと思う。
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