御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「俺の気持ちは、美咲と寝た夜に伝えただろう?」

「近衛さんの気持ち、ですか……?」

「ああ。お互いのすべてを見せあって、本物になろうと言ったはずだ」


思いもよらない言葉に、今度は私が考え込む番だった。

確かにあの日、彼と肌を重ねる前に、彼は私にそう言ったけど……。

でもそれは、あくまで仕事の一貫で、仕事をスムーズに進めるための〝必要な嘘〟だと思っていた。


「俺は仕事以外では、思ってもないことは言わない主義だとも伝えたはずだ。そもそも、仕事相手と割り切っているなら、安易に寝たりするはずがないだろう? 家にだって招かないし、好きでもない女のために、ご丁寧に朝晩コーヒーを淹れる趣味もない」


──好きでもない女のために。

それは要約すると、私のことを好きだと言っているように聞こえて、自分の耳を疑った。

だって、こんなの信じられるはずがない。

近衛さんが……私のことを好き?

そんな奇跡、幼稚園の水道の蛇口からコーヒーが出るくらい、ありえない話だと思う。

 
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