御曹司は偽婚約者を独占したい
「始めは美咲の、夢に実直な姿勢に惹かれた。そして、君に触れてはじめて……誰かを、こんなにも愛しいと思えることが幸せなことだと気がついた」
再び、涙の雫が頬を伝って零れ落ちた。
──今はまだ、仕事中なのに。
こんなところで泣いたらダメだと思うのに、もう、どうにも想いが溢れて止められない。
「もう俺は、君以外の女性を、自分のフィアンセと呼ぶつもりはない」
もちろん、偽者ではなく本物のフィアンセとして。彼は今、私にプロポーズをしてくれているのだ。
もしかしたら、彼は気づいていないのかもしれない。
でもこれは、誰が聞いてもプロポーズ以外の何物でもないと思うんだ──。
「……ありがとう、ございます」
ぽつりと零すと、彼は言葉を止めて私を見つめる。
「嬉しいです、私……。私ももうずっと前から、近衛さんのことが好きでした。近衛さんをはじめて見たその日から、あなたに憧れていました」
──閉店間際の午後七時半。
窓際の、お決まりの席でコーヒーカップに口付ける彼に、私はずっと惹かれていた。