御曹司は偽婚約者を独占したい
「私、難しいかもしれないけど……。近衛さんに釣り合う女性になれるように、がんばります。それで、いつでも近衛さんの心を温めることのできるような……。近衛さんにとって、特別なコーヒーみたいな存在になれたら嬉しいです」
きっと、まだまだ時間はかかるだろう。
もしかしたら、どんなに時間をかけても、彼の隣に並ぶことはできないかもしれないけれど。
「私は、近衛さんのことが大好きだから。それだけは、堂々と胸を張って言えます。すみません、私……本当に今、夢を見ているみたいで、なんだかさっきから恥ずかしいことばかり言って──」
「──それ以上、俺を煽るようなことを言うな」
そのとき、不意に呟かれた彼の声が、私の言葉を止めた。
数回瞬きを繰り返すと、近衛さんの綺麗な瞳が私を映して小さく光る。
「夢じゃない。この先もずっと、俺が隣にいることが美咲の現実だ。頼まれても、もう二度と離してやるつもりもない」
「もちろん、夜も覚悟しろ」と、耳元に唇を寄せて囁いた近衛さんは、私の頬にそっと口付けた。
それは唇にされるキスよりも、なんだかとてもくすぐったくて、愛おしかった。
思わず真っ赤になるとその反応を見た彼が、また面白そうに表情を緩める。
「あ、あ、あの……っ」
「とりあえず、明日のパーティーでは正式に、美咲を俺のフィアンセだと紹介させてもらう」
その言葉に、ハッとした私は、グルグルと色々なことを思い出した。
そうだ、明日は彼の上司であるルーナの社長の結婚披露宴なのだ。
その披露宴のあとに行われる祝賀会で、私は彼の婚約者を演じる予定だったんだ。