御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「まぁ、弁護士ではないけど、一応、法学部出身ではあるから、少し法律を囓っているのは本当だ」


冗談交じりに言った近衛さんを前に、私は返事に困ってしまった。

なんだかもう、雲の上の人というか、住んでいる世界が違いすぎて悲しくなる。

かたやタワーマンションに住む、一流企業の社長秘書。一方はカフェのしがないバリスタだ。

まさか、ずっと盗み見ていた窓際の彼がこんなに凄い人だったなんて……。

まぁでも、出で立ちと容姿から、既に雲の上の人ではあったことには間違いない。

ひとつ言わせてもらうとするのなら、先ほど店内で話した彼と今の彼とでは、印象がまるで違うことくらいだろうか。

秘書という肩書に見合う紳士的だった彼は仮面を被っていたのか、多分今の彼こそ、素顔の彼なのだろう。


「あ、あの……お忙しいだろうに、なんだか色々、本当にすみませんでした」


もう、自分でもなんだかよくわからないけれど、改めて頭を下げた。

鼓動は高鳴るばかりで、私の心は動揺で埋め尽くされている。


「あの……今のお話を聞いたあとで不躾かもしれないんですが、何か助けていただいたお礼をさせてもらえませんか?」


私とは住む世界の違う人。
それでもせめて、助けてもらったお礼くらいはさせてほしい。

 
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