御曹司は偽婚約者を独占したい
「無理じゃない。先ほど、あの男に立ち向かった君ならできる。それに今、自分にできることがあれば言ってほしいと言ったばかりだろう?」
「そ、それは……っ」
「女に二言があるのか。当日は俺がそばにいるし、何があってもフォローするから大丈夫だ」
「……っ!」
トクン、と心臓が甘い音を立てたのは、近衛さんの目が甘く誘うような色気を纏っていたからだ。
一瞬で、彼の虜(とりこ)になってしまう。
ああ、もう。なんでこんなことになってるの。
そんな大役、私に務まるはずがないでしょう?
頭ではわかっているのに、彼から一秒たりとも目を逸らすことができなかった。
「君にしかできないことだ」
けれど、そんな私の心情を見透かしたかのように、甘い声が私を誘う。
──嘘。
だって、彼ほどの人なら女の人は選り取り見取りのはずだから。
私の代わりどころか、もっと綺麗でハイスペックな女性なんていくらでもいるだろう。
だけど今……わかっているのに、どうしても、彼の力になりたいと思ってしまった。
ううん、本当は……『君にしかできないことだ』と言われたのが、嬉しかったのかもしれない。