御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「わかりました……私にできることなら、謹んでお受けします」


覚悟を決めて答えたあとで真っすぐに顔を上げると、近衛さんは酷く魅惑的な笑みを浮かべた。

どこまでも、綺麗な人だ。

天は彼に二物も三物も与えすぎている。


「ありがとう。これからは、何か困ったことがあればいつでも駆けつける。だって美咲は、俺の大切なフィアンセなんだから」


──偽者のフィアンセだけど。

それでもいいから、もう少しだけ彼のそばで、彼のことを知りたい……。

そう思ってしまった私は多分、コーヒーに溶かされた砂糖のように、彼に溺れはじめている。

与えられた甘さは偽りのものなのに、どうしても今、彼にもっと触れたくなった。

 
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