御曹司は偽婚約者を独占したい
 




「え、えっ。マジっすか、うわ〜〜! なんで俺、昨日に限って休んだんだろう!」


翌日の土曜は、夕方から降り始めた雨のせいで肌寒かった。

飲食店ならではの忙しさを乗り越えたあとのスタッフルームは、やけに静かだ。

部屋の中には私と同様に、ラストまで務めたスタッフの〝ノブくん〟の悔しそうな声と、窓を叩く雨音が響いている。


「で、でもっ。それでほんとに、アイツは二度と現れないんですかね!?」

「うーん。多分、昨日の感じだと諦めてくれたと思う。今日も現れなかったし、おかげでこれからは安心して仕事に集中できそうかな」


苦笑いを浮かべながら、仕事中はひとつにまとめていた髪を解いた。

話しながら歩を進めた私は、部屋の片隅にあるクリーニングの回収ボックスの中へと黒いソムリエエプロンを落とした。

着替えも終えたし、今日はもう帰るだけだ。

明日は久しぶりの休みだから、帰ったらお気に入りのカップにコーヒーを淹れて、録り溜めていたドラマを見よう。

 
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